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ハイテクジャパン

食べものをおいしいまま長期間保存する、進んだ日本の冷凍技術


パート2

細胞をこわさない冷凍技術を求めて

 しかし、当時、冷凍技術はまだ完全ではありませんでした。急速冷凍しても、こわれてしまう細胞はあり、非常に低い温度で保存しても食材によっては変色や変質を完全に防ぐことができないからです。


 そこで登場してきたのが「瞬間冷凍(しゅんかんれいとう)」です。水でも食べものでも、温度が0˚Cで凍り始めるとは限りません。氷の結晶の核になる水分子などのかたまりがないと、-10˚Cになっても凍り始めないことがあるのです。その状態を「過冷却(かれいきゃく)」といいます。過冷却の液体は、振動を与えられたりすると全体が一気に凍ります。それが瞬間冷凍です。


冷凍されたものとは思えないほど新鮮なアセロラ(左)と10年前から凍らせていながら割れや黄ばみがない米(右)。ともにCAS冷凍庫に入っていたもの

冷凍されたものとは思えないほど新鮮なアセロラ(左)と10年前から凍らせていながら割れや黄ばみがない米(右)。ともにCAS冷凍庫に入っていたもの

 急速冷凍をふくめた普通の冷凍法では、表面から奥に向かって凍っていきます。しかし瞬間冷凍では表面も奥(中味)も同時に凍ります。そのため氷の結晶は他の結晶と合体して大きく成長する前に、小さいままバラバラの状態で凍ります。そのため、細胞の破壊はほとんどなくなるのです。しかしこの瞬間冷凍法には、過冷却になる温度帯が食品とその部位(ぶい)によってバラバラで、どんな食品でも通用するわけではありませんでした。


 そこで、食べものを、反転をくり返す磁場の中に置き、振動させながら急速冷凍する「CAS(Cells Alive System)」という瞬間冷凍の技術が、近年注目されるようになりました。細胞を生かすシステムという意味の名前を持つCASは、日本の画期的な最新技術です。開発者によれば、CAS凍結では、過冷却状態から一気に凍る時のように表面も中心も短時間差でほぼ同時に凍り、氷の結晶が大きく成長しないので細胞をほとんどこわしません。そのためおいしさや香りの成分、食感、色などがそこなわれないのです。実際、従来の冷凍法ではむずかしいとされてきた果物や野菜を、新鮮なまま長期間保存することにも成功しています。CASのメカニズムはまだ十分には解明されていませんが、移植用臓器の冷凍保存など医療への応用も検討されています。


 急速冷凍から瞬間冷凍やCASへ…。今、日本の冷凍技術は、また大きく進化し、世界の食糧事情の改善や食文化の発展に大きく貢献しようとしているのです。


<従来の冷凍>
従来の冷凍

(1) 凍結前の素材の水分子
(2) 全体が凍結するまでに表面近くの氷が成長して大きくなり、細胞膜や細胞の中の栄養や香りの成分をこわす
(3) 解凍すると、水分や壊れた栄養・香り成分の一部が細胞の外にもれ出すドリップ現象がおこる


<CASをはじめとする瞬間冷凍>
CASをはじめとする瞬間冷凍

(1) 凍結前の素材の水分子
(2) 素材全体が一気に凍る
(3) 解凍後も水分子は凍結前と同じ状態となり、素材を新鮮なままに保つ


CAS冷凍庫で凍らせたカキ(左)を解凍してみると(右)、ついさっきまで海にいたかのような磯の香りがした

CAS冷凍庫で凍らせたカキ(左)を解凍してみると(右)、ついさっきまで海にいたかのような磯の香りがした

CAS freezers

アビー社のCAS冷凍庫

(2011年9月更新)