遺伝子を書き換え

微生物を培養する装置=スパイバー社提供
そこで、今回のクモノス開発では、すべての生物の遺伝子のもととなっているタンパク質の「設計図」のデザインを書き換えるバイオテクノロジーが使われました。クモではない他の生物に、クモの糸と同じタンパク質を作らせようというのです。本物のクモの代わりには、微生物が選ばれました。微生物なら培養(ばいよう)という方法で、短時間に大量に増やすことができます。実際、設計図を変更されてクモの糸を出せるようになった微生物は、実験設備の中で、約半日のうちに1個から1億個に増え続けます。
これらの微生物から取り出したクモの糸のタンパク質は、いったん溶かしてから化学繊維を作るのと同じ方法で糸にします。クモの糸のタンパク質を溶かすには、以前は毒性が強い危険な薬品を使わなければいけないという問題がありましたが、今回のクモノス開発では、安全な薬品が見つけ出されました。
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また、クモノスは、タンパク質を粉にして溶かす段階で色素を混ぜて染めることができるのも大きな特徴です。できあがった糸や繊維を、後で染め直す必要はありません。
人工血管などに活用

色づけされたクモの糸=スパイバー社提供
こうして生まれた新素材クモノスを大量生産するため、日本の山形県に、近く、月に100㌔を生産できる設備が建設される予定です。15年には月産10㌧まで生産量を増やすことを計画しています。
大量生産の技術が進歩して製造するための費用が下がってくれば、人工クモの糸は、たんに衣料用の繊維としてだけではなく、さまざまな目的に利用されるでしょう。炭素繊維などと混ぜて、さらに軽くて丈夫な飛行機の機体や自動車部品にしたり、軽くて柔らかく長持ちする素材として人工血管や手術用の糸などに加工することも考えられています。紫外線に強い性質を利用すれば宇宙服の材料にもなるでしょう。
プラスチックなど石油を原料とする製品作りが、資源の枯渇(こかつ)や地球温暖化を引き起こしている今、バイオテクノロジーを使った新たな素材の開発は、世界的に大きな注目を浴びています。
(2013年7月更新)